歯科レーザー治療とは?レーザーの第一人者が語る可能性
歯科医療の現場では、痛みや出血、長い治療期間が患者の大きなストレスになってきました。特に歯周外科治療では、メスで切開し縫合するというプロセスが当たり前のように行われており、「治すためには仕方ない」と我慢を強いられる場面も少なくありません。ところが近年、こうした常識を覆す治療法が注目されています。それが「レーザー治療」です。
今回のインタビューでは、梅田にて30年以上にわたり臨床に携わり、歯周病やインプラント治療にも精通している岡田歯科医院の院長、岡田修二先生にお話を伺いました。先生が導入しているのは、特殊な波長を持つ歯科用レーザー。このレーザーは、切開や止血だけでなく、術後の痛みや腫れを大幅に抑え、まるで“無菌的なパック”のような状態を自然に作り出します。
「従来のメスとはまったく考え方が違う」「術後のストレスが激減する」と語る先生の言葉からは、レーザー治療の本質と可能性が見えてきます。この記事では、従来の外科的アプローチとの違いや、患者にとってのメリット、そしてなぜこの治療法がまだあまり知られていないのか――その背景にも迫ります。
歯科治療に不安を感じる方、レーザー治療に興味はあるが実態をよく知らない方、そして導入を検討する歯科医師の方々にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。

岡田歯科医院 岡田 修二 院長
岡田歯科医院の院長・岡田先生は、レーザー治療の普及に尽力されており、現在は大阪北区の歯科医師会理事長も務められています。また、その卓越した知識と技術は多くの歯科医師に教えを請われるほどで、レーザー治療の指導医としてもご活躍。
レーザー治療とは?
一般治療で使用されるレーザー治療とは、どういうものなのでしょうか?
レーザー治療というのは、皮膚科なんかでシミを取るときに使うレーザーと同じように、光を当てて治療する技術なんです。歯科では、主に歯ぐきや粘膜の切開、病的な組織を蒸散させたり、止血したりといったことに使われます。
使うレーザーには主に4つの種類があって、炭酸ガスレーザー、エルビウム・ヤグレーザー、ネオジム・ヤグレーザー、それから半導体レーザーです。それぞれ「波長」という性質が違っていて、その波長の違いが治療の特性に直結するんです。レーザーというのは電磁波の一種なんですね。X線や紫外線、可視光線、そして電子レンジなんかで使われているのも、全部電磁波。これらは「波」の一種で、それぞれに波長の長さがある。それによって性質が違ってくるんです。
たとえば、エキシマレーザーっていうのは、すごく波長が短い。炭酸ガスレーザーは逆に波長が長い。歯科で使うレーザーは基本的に「熱レーザー」って言って、当たった部分に熱を発生させることで治療効果を出すんです。だから、切ったり焼いたりするのが得意なんですね。
一方で、エキシマレーザーは熱を発生させず、分子レベルで結合を壊すことで切開したように見える。熱を使わないので「コールドレーザー」とも呼ばれています。ただ、このレーザーはDNAに影響を与えやすい波長を持っていて、がん化のリスクがあるんですね。だから医科の分野では使われるけど、歯科では基本的に使いません。歯科用のレーザーは熱を利用しているので、より安全性が高いんです。それに、それぞれのレーザーには水への吸収のしやすさという特性があるんですね。
体って水分がたくさん含まれてるでしょ。水に吸収されやすいレーザーは、体に当たるとすぐに水分に反応して、表面でエネルギーを使い切ってしまう。つまり、表面にだけ作用するんです。炭酸ガスレーザーなんかはそのタイプ。一方で、ネオジムや半導体レーザーは水に吸収されにくいので、奥のほうまで届くんですね。だから、どこを治療したいかによって、レーザーの種類を選ぶ必要があるんです。
レーザーの機械を見ると、半導体レーザーが一番コンパクトに見えますね。
そうですね。半導体レーザーは電子回路で作れるので、機械自体が小さくてシンプルなんですよ。だから価格も安い。ざっくり言うと、他のレーザー機器の半分以下ぐらい。そういう理由もあって、歯科医院が初めてレーザー導入しようってなったら、まず半導体レーザーを選ぶことが多いですね。
ただ、当然ながらそれぞれのレーザーには特徴があります。たとえば、半導体レーザーは熱が深くまで届きやすい。その分、当てた組織の深いところまでダメージを与えるんですね。炭酸ガスレーザーの場合、組織がダメージを受けるのはだいたい0.1ミリ程度。でも、半導体レーザーだと、それが10倍から50倍くらいの深さにまでなる。
深く焼けたら、それだけ痛みも出やすくなります。ただ、その分止血効果は高い。やけどのあとに白くなる、あの「タンパク変性層」っていうのが厚くできるので、止血したいときなんかには役立ちます。
ただ、細かい作業には向いてない。半導体レーザーはどうしても出力が強いから、繊細な操作にはちょっと不向き。その点、炭酸ガスレーザーはテクニック次第でいろんな応用が利くし、止血もできる。つまり、歯医者の腕の見せどころということですね。
ということは、半導体レーザーはあまり使われていないんですか?
いや、むしろ人気なんですよ。安いし、導入しやすいしね。ただ、それは「使いこなせば」という話で。半導体レーザーは、歯周ポケットみたいな目に見えないところや、根の中の治療なんかにも使えるんです。レーザーを当てると600度から800度ぐらいになる。そんな高温じゃ、細菌やバクテリアは生きられないですよね。だから、根の中を薬じゃなくて、レーザーの熱で直接滅菌することもできる。これはすごく大きな進歩だと思いますよ。
600度って聞くと、かなり熱そうですが…治療中に痛みはあるんでしょうか?
そこは心配いらないです。
レーザーは「スーパーパルス」っていう技術を使って、熱を一気に放出しないようにしてるんです。そのおかげで、「熱い」っていう感じじゃなくて、「チクチクする」ぐらいの刺激で済むんです。もちろん無麻酔でも治療できることが多いですよ。
さらに、レーザーには「遠赤外線効果」っていうのがあって。特に炭酸ガスレーザーはその効果が高くて、組織をじんわり温めることで、活性化させるんですね。
熱によって一部の組織はダメージを受けるんですが、そのすぐ下に「活性化層」っていう元気な細胞がたくさん出てくる。この層が痛みをやわらげたり、治りを早くしてくれるんですよ。赤ちゃんの入る42〜43度くらいのお風呂と同じぐらいの温度で、その層をうまく育てることができるんです。
お風呂に入るとポカポカして気持ちいいですよね。でも、効果はせいぜい30分くらい。でも炭酸ガスレーザーで活性化された層は、最大で72時間も効果が持続するんです。だから「どれくらいの頻度でレーザー当てたらいいですか?」って聞かれたら、「3日ごとに当ててください」って答えてます。
歯科のレーザー治療っていうのは、そういう優しく組織を助ける治療と、高温でしっかり処置する外科的な治療の2つの軸があるんですね。その2つをうまく組み合わせながら使っていくのが、今の歯科レーザー治療の考え方なんです。
実際のレーザー治療における実例とは
先生、「パックする」というのは具体的にどういうことですか?
これは、いわば「無菌的な保護膜」が自然にできるということです。従来であれば、オペの後に「歯周パック」と呼ばれるガーゼやゴムのようなものを薬局で買ってきて、切開した部分に貼って保護していました。いわば“貼る治療”が主流だったんです。
でも、レーザー治療ではそれが不要になる。体自身が自己修復の力で“無菌的なパック”を作るんです。だから、何も貼らなくてもいい。従来のように、傷口の上からゴムのようなもので覆って「パック」する必要がないんですね。
病名:歯肉炎
治療名:G ect(歯肉切除)
保険点数:1ヶ所320点で、このケースは5ヶ所で1600点。
治療期間:若い人で1週間、高齢の人で2週間程度。
※従来の術式では、歯肉をメスで切って縫合して歯周パックをするので、患者の違和感が強い。
それって、火傷の「かさぶた」みたいなものですか?
確かに、イメージとしては近いです。ただ、決定的に違うのは“深さ”です。火傷だと、ミリ単位で皮膚が損傷していて、触るとヒリヒリ痛いですよね。でも、レーザーの場合は違います。100ミクロン、つまり0.1ミリの深さしかありません。だから、ほとんど痛みがないんです。
メスで切る外科処置と違って、レーザーは組織を“焼き飛ばす”ような処理なので、ほとんど傷跡も残らず、術後の痛みも極めて少ない。メスで切ると、1週間どころか2〜3週間は痛みや違和感があります。しかも、その間はガムのような保護材を貼るので、なおさら不快なんです。
それが、レーザーだと痛みも違和感もなく、短期間で綺麗に持っていける。これがレーザー治療の一番の魅力ですね。
病名:血管腫
治療名:血管腫除去(口唇腫瘍摘出術・その他のもの)
保険点数:3050点プラスレーザー加算200点
従来の術式では2種類の方法がある。凍結外科では患部を凍らせて除去する。痛みが出る可能性が高い。もう一つはメスで切って縫合する。術後形態不良で引きつりが残る。これらはクリニックでは面倒な治療になり、病院に送ることが多い。
治療後のケアとして、口の中を清潔に保つ必要はありますか?
もちろん、清潔に越したことはありませんが、レーザー治療の場合、そこまで神経質になる必要はありません。
というのも、レーザーを当てた部分には“活性化層”というバリアのようなものが自然にできるんです。この層が細菌の侵入を防いでくれるので、多少の汚れでは腫れたり炎症を起こしたりしにくい。つまり、従来のように「汚れると細菌感染する → 腫れる → 炎症がひどくなる」といった悪循環が起こりにくいんですね。
例えるなら、マジックのような話ですが、それくらい術後のリスクが低い。もちろん、治療時間も短く、通常は数分程度で済みます。
レーザー治療の将来性について
レーザー治療は、従来の外科治療とは根本的に違うんですね。
そうなんです。これまでなら、切って縫って、という大がかりな治療になっていたケースも、レーザーなら“当てるだけ”で済む。
たとえば、従来なら「これはうちでは難しいから口腔外科に紹介しよう」となる症例も、レーザーならその場で対応できることが多い。口腔外科では「メスで切る」という判断が基本ですし、切る以上は縫合まで考えて治療するわけですが、それには高度な技術が必要で、治癒までの時間も長くなります。
でも、私たちは外科出身ではないからこそ、「本当に切る必要があるのか?」と立ち止まって考えるんです。そして、患者さんにとって一番楽な方法を選ぶ。その選択肢が“レーザー”なんです。
患者さんにとって大事なのは「痛みがないこと」「ストレスがないこと」。レーザーはそれを実現できるんですよ。
これほど楽な治療法なのに、なぜ広まっていないんでしょうか?また、レーザー治療は保険適用ではないのでしょうか?
一番の理由は、「正しく伝えられていない」ことです。メーカーも、国も、なかなか説明しきれていないんです。
レーザー治療が保険適用されるのは、外科手術と口内炎の治療です。これも、全ての外科手術が適用されるわけではありませんが、昔に比べてだいぶ増えましたね。
逆に保険適用されないレーザー治療は、メラニン除去などの審美的な手術です。これらは、全て自費になってしまいます。
実際、すでに全国で約4割の医院にはレーザー機器が導入されています。でも、保険に組み込まれていないから、治療内容に制限があるし、メーカーも「切開・蒸散・止血」の3項目以外は口外しづらい。薬事法の関係で、そうなってしまうんですね。
ただ、現場で実際にやってる治療って、その3つに収まりきらないものばかりなんです。たとえばインプラントにも応用できます。私は30年前くらい、もともとインプラントに対して懐疑的だったんですが、このレーザーを使うことで「これならいける」と確信を持ちました。色々な経験と検証を繰り返して、ようやく辿り着いた感覚です。
レーザー治療にデメリットはないんですか?
ほぼないです。菌の温床にならないし、過剰な刺激もない。正しく使えば、極めて安全な治療法です。
ただし、機械は導入していても、実際に使いこなしている医院は意外と少ない。だから、きちんとレーザー治療を日常的に行っている医院なら、むしろ安心して受けていただけると思います。世間でレーザーというと「虫歯を削るレーザー」が話題になりますが、あれは実際すごく時間がかかる。実用的ではないんです。
なのに、それが“レーザー治療の代表”のように思われてしまっているのが、もったいないですね。
それでもやはり、もっと広まってほしいですね。
本当にそう思います。ただ、大学や学会ではなかなか受け入れられにくい。というのも、大学で教えているのは“メスを使って縫う”という技術だからです。レーザーはその延長線上にないので、根本的に考え方が違う。
大学側も機械は導入しているとは思いますが、学生が触れる時間はほとんどないと思います。とにかく、縫う練習に必死ですからね。
また、インプラントの学会でも、レーザーの存在を知らない先生も少なくない。そもそも情報が届いていないんです。エビデンスの話もよく出ますが、臨床では15症例で十分エビデンスになります。私は多くの臨床経験がありますので、確信があります。
真面目に治療している先生ほど驚かれますし、「もっと早く知りたかった」と言われることが多い。ただ、レーザーはやはり技術が必要なので、誰でもすぐにできるわけではありません。
だからこそ、私は塾などで先生方に伝えているんです。この技術を正しく理解していただいて、患者さんのためにもっと活用してほしいと心から思っています。
よくある質問
Q. 歯科のレーザー治療とはどんな治療ですか?
A.歯科のレーザー治療は、メスを使わずに「光の熱エネルギー」で患部を切開・止血・殺菌する治療方法です。歯ぐきや粘膜、歯周病の治療、根管の殺菌処置など幅広い用途があり、従来よりも痛みや出血が少なく、回復も早いのが特長です。無麻酔で可能なケースも多く、術後も違和感が少ないとされています。
Q. 歯科レーザー治療にはどんなメリットがありますか?
A.主なメリットは次の通りです
- 出血や痛みが少ない
- 傷跡がほとんど残らない
- 術後の腫れや不快感が少ない
- 通常の手術に比べて治癒が早い
- 無菌状態に近い“自己パック”効果がある
- 一部保険適用も可能(歯周外科・口内炎治療など)
Q. レーザー治療は本当に痛くないのですか?
A.はい。レーザーは「スーパーパルス技術」により熱の放出を抑えており、「チクチク感じる」程度の刺激で済むことがほとんどです。局所麻酔なしでも施術可能なことが多く、術後の痛みも少ないため、患者さんのストレスが大きく軽減されます。
Q. 歯科レーザー治療にはデメリットはありますか?
A.大きなデメリットはほとんどありませんが、機器の種類や出力によって使い方に注意が必要です。また、レーザー機器は導入医院が増えてきた一方、使いこなしている医院はまだ少ないのが現状です。技術力のある医院での治療が推奨されます。
Q. レーザー治療は保険適用されますか?
A.はい、一部の治療(歯周外科や口内炎など)では保険適用となります。ただし、審美目的(メラニン除去など)の治療は保険適用外で、自費診療となるため、事前に医師に確認することが大切です。
Q. どのような症状にレーザー治療が使われますか?
A.レーザー治療は、以下のような幅広い症状に使われます
- 歯肉炎や歯周病の治療
- 根管(神経)の滅菌処置
- 口内炎の痛み緩和
- 血管腫の除去
- 外科処置後の止血・殺菌
- インプラント周囲の消毒・治癒促進 など
Q. レーザー治療はすべての歯科医院で受けられますか?
A.いいえ。日本全国の歯科医院の約4割がレーザー機器を導入していますが、日常的に使用し、技術を磨いている医院は限られます。信頼できる医院選びが重要です。

岡田 修二 院長(岡田歯科医院)
大阪市北区/梅田駅 徒歩3分
歯科用レーザー治療の第一人者である岡田修二先生は、30年以上の豊富な臨床経験を持つ歯科医師。従来のメスによる外科処置と比べて、痛みや出血、術後の違和感を大幅に軽減できる先進的な歯科用レーザー治療。岡田先生は、このレーザー治療の普及に尽力されており、現在は大阪北区の歯科医師会理事長も務められています。また、その卓越した知識と技術は多くの歯科医師に教えを請われるほどで、レーザー治療の指導医としてもご活躍。
施設情報
医院名 | 岡田歯科医院 |
---|---|
所在地 | 〒530-0017 大阪市北区角田町7-10 HEPナビオ(阪急メンズ館)6F |
連絡先 | 06-4301-5848 |
最寄り駅 | 梅田駅 徒歩3分 |
公式サイト | https://www.okada-dc.org/ |